東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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胃食道逆流症(GERD:ガード)って、どんな病気?

胃食道逆流症(GERD:ガード)は胃内容物が食道へ逆流して起こる病気です。胃から食道に逆流する原因は様々で、逆流する胃内容物も様々ですが、これによって起こる悪影響の大半は「胃酸の逆流」によるものだと考えられています。このため、胃酸分泌を抑える薬を使うことが、この病気の基本治療方針の一つになっています。胃潰瘍や十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)と比べると余り知られていない疾患でしたが、現在は一般の方への認知度も高まっています。現在の我が国における頻度は消化性潰瘍の10倍以上であり、最も頻度の高い消化管の病気の1つとなっています。

胃食道逆流症(GERD)は、(1)内視鏡所見で異常所見を認める「逆流性食道炎」と、(2)逆流症状(胸やけや酸逆流症状)はあるけれども内視鏡検査で異常のない「非びらん性胃食道逆流症(NERD:ナード)」の2つに分けられます。逆流性食道炎は内視鏡検査で診断も付けやすく、また、胃酸分泌を抑える薬が効きやすいことが知られていますが、実際はNERDの患者数の方が多いことが知られています。逆流性食道炎とNERDは、いずれも食道への逆流によって起きる病気ですが、危険因子や薬剤の効き方が大きく異なっており、かなり違う病態と考えられています。

胃食道逆流症(GERD)の2大症状は「胸やけ」と「酸逆流症状」ですが、実際には食べ物がつかえる感じ・胸痛・もたれ感など多彩な症状が起きることが知られています。特に「食道外」に出現する喉の症状や気道の症状は見落とされやすく、原因不明の咳や喘息症状が、胃酸の逆流によって引きおこされていることが稀ではありません。原因不明の咳が胃酸を抑えることで改善する場合がかなり多いことが近年は分かってきましたが、医師でも見落とすことがありますので、注意が必要です。

胃食道逆流症(GERD)の危険因子として、様々な生活習慣が知られていますが、特に良くない食習慣は避けた方が良いとされています。具体的には、夜食(就寝前2~3時間は食事をなるべく控える)、早食い大食いなどの好ましくない食習慣が危険因子と考えられています。また、お腹の圧をあげる肥満きつすぎる衣服も良くないとされています。最近のトピックスとして、睡眠障害も強く関連していることが分かってきました。胃食道逆流症(GERD)患者の睡眠障害はこれまで、「就寝時の姿勢や、就寝中の唾液分泌の減少によってGERD症状が生じやすくなり、その結果として睡眠障害をきたす」と考えられてきました。しかし最近では、睡眠障害によって胃食道逆流症(GERD)が悪化する可能性が報告されており、胃食道逆流症(GERD)と睡眠障害は、相互に危険因子であると考えられるようになっています。

現在、軽症例も含めると、胃食道逆流症(GERD)の患者は、我が国の成人の25%を超えるとされ、極めて身近な病気になっています。優れた胃酸分泌抑制剤が開発され、使えるようになっていますが、まずは生活習慣の見直しによって、病気の発症を抑えるようにしましょう。また、様々な症状を呈することがありますので、もしかしたら、、、と思ったら、専門医に相談されることをお勧めします。

逆流性食道炎の分類
N:正常、M→A→B→C→Dの順に悪化します。

(山道信毅)

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