東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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尿酸値、あまく見ない!

尿酸とは何でしょうか?

今回は、「尿酸」について説明いたします。テレビのコマーシャルで、「プリン体ゼロのビール」という言葉や、「痛風発作」という病気を、お聞きになったことはあるでしょうか。これらは、「高尿酸血症」と関わりのある単語です。

尿酸は、プリン体という物質から生まれます。プリン体は、細胞の核に存在する核酸の構成成分です。ヒトの体はたくさんの細胞が集まって出来ており、ヒトが元気に生きるために、細胞は新陳代謝を繰り返しています(新陳代謝とは、古い細胞が死んで、新しい細胞が生まれるイメージです)。細胞が死ぬ時、核酸も分解され、プリン体が生まれます。プリン体は体の中で代謝され、最終的に尿酸という老廃物になり、便や尿の中に混じって、体の外に排泄されます。つまり、私達の体の中では、自然とプリン体が作られ、尿酸がたまる仕組みになっています。

尿酸は、体の中で作られるだけではありません。体の外からも入ってきます。私達が摂取する食べ物や飲み物にも、プリン体が含まれているからです。ヒトと同じように、穀物や肉、魚なども、たくさんの細胞で成り立っています。ですので、飲み食いをすれば、私達の体にプリン体が取り込まれるので、尿酸がたまる原因となります。つまり尿酸とは、ヒトが生きること、飲み食いをすることで、自然と体にたまってしまう老廃物と言えます。
(ちなみに、尿酸はビタミンCと同様、体に良い「抗酸化作用」を持つという報告もあります。ですので、尿酸イコール悪者、ではありません。後で述べますが、血液の中の尿酸が必要以上に増えてしまうことで、体に悪影響を及ぼすのです)。

痛風発作とは何でしょうか?

健康な状態では、尿酸が作り出される量(産生量)と、体の外に排泄される量(排泄量)のバランスが取れているため、血液の中の尿酸は、一定の範囲に保たれます。しかし、尿酸の産生が過剰になったり、排泄量が低下したりすると、血液の中の尿酸の値が高くなってしまいます(一般に、7.0mg/dlを超えると、「高尿酸血症」と呼ばれます)。すると、尿酸は血液に溶けきれず結晶となってしまい、体の色々な場所にくっ付いてしまうのです。図①の写真をご覧ください。まるで、ウニのトゲのように見えるのが、尿酸の結晶です。

「結晶」というきれいな名前とうらはらに、尿酸の結晶は異物ですから、体は黙っていません。異物を取り除こうとして、体が「炎症」を起こすので、赤く腫れたり、強い痛みを感じたりするようになります。これが「痛風発作」で、足の関節などに起きやすいです(図②をご覧ください)。俗に、「風が当たっただけでも痛む」ほど痛みが強いことから、痛風という名前がついたとされています。血液の中の尿酸が高い方は、痛風発作を起こす危険性がありますので、注意が必要です。

(図①)
(図②)

どうして高尿酸血症に気を付けなくてはいけないのでしょうか?

一般に、痛風発作を起こした時は、痛み止めを飲んで治療していただきます(腎臓の悪い方や、アレルギーをお持ちの方などは、痛み止めが使えないこともありますので、医療機関へご相談ください)。痛みさえ治まってしまえば、もう治療しなくていいや・・・というわけにはいきません。なぜなら、尿酸が高い方、痛風発作の既往をお持ちの方は、他の病気になる危険性があったり、他の病気を持っていたりする可能性があるからです。

例えば、尿酸が高い状態が続くと、腎臓の負担が大きくなり、腎臓の働きが落ちてしまうことが知られています。他にも、血液の中だけではなく、尿の中でも尿酸が結晶化してしまい、尿路結石の原因にもなり得ます。また、様々な疫学的な研究から、高尿酸血症の方は、高血圧症や脂質異常症、耐糖能異常(糖尿病)、メタボリック症候群など、多くの「生活習慣病」も持っていることが分かってきました(これらの病気については、過去の健康コラムに書かれていますので、あわせてお読みください)。

尿酸が高くなりやすいのはどんな人?

図③をご覧ください。国内の高尿酸血症ならびに風痛発作の患者さんの数は、年々増えていることが分かります(男性が多いことが特徴です)。この背景として、食生活の欧米化や、運動量の低下が関わっていると考えられています。最近、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、痛風患者さんが増えたという研究報告を読みました。やはり、尿酸と食生活・運動習慣には、深い関係があるようです。

(図③)

どのような治療があるのでしょうか?

高尿酸血症の治療は、血液中の尿酸の値や、痛風の既往の有無、合併症の有無(腎障害、尿路結石、高血圧などの生活習慣病、心疾患など)によって、方針が異なります。お薬での治療をすみやかに開始する方もいますし、生活指導(アルコールの摂取制限を含めた食事指導や、運動療法)を導入しながらフォローアップする方もいます。1人1人の患者さんによって、治療法や目標値が異なりますので、本コラムでは治療法に関する詳しい話は割愛します。

症状がなくても、病院へ相談して良いの?

もちろんです。時々、「尿酸が高いと言われましたが、痛みがありません。病院へ相談して良いのでしょうか」というご質問を受けることがあります。痛風発作でおつらい経験をお持ちの方はもちろん、無症状の方でも、どうぞお気軽に医療機関へご相談ください。上述のように、腎臓のご病気や高血圧など、他の病気をお持ちでないか、一緒に考えて参りましょう。

最後に、1つ注意を申し上げます。上述のように痛風は、足などの関節が熱っぽく赤く腫れたり、痛みを感じたりする病気です。しかし、痛風以外に、似た症状の病気が他にもあります。例えば、関節リウマチ、皮膚や骨の感染症などは、痛風と誤りやすい病気です。特に感染症は、放置してしまうと重症化してしまいます。ご自分で判断なさらず、必ず医療機関へご相談ください。

(文責 升田 紫)

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