東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)

機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD、エフ・ディー)は、比較的、最近になって概念が確立してきた疾患です。厳密な定義が医学の世界ではありますが、分かりやすく言うと、「様々な胃の症状が長期間続くのに内視鏡検査では異常を認めない病気」です。機能性ディスペプシアは臨床現場では「慢性胃炎」と診断されることが多く、様々な胃薬が処方されますが、治療の効果が決して高くないことも特徴の一つです。実際には右の一覧に示すような様々な症状が知られており、様々な治療法を行ったとしても、コントロールに難渋することがしばしばです。この病気は命に関わる可能性はなく、また、内視鏡検査で異常が見つからないため、以前は軽視される傾向がありました。しかし、機能性ディスペプシアの患者は成人の15%程度いる可能性が報告されており、非常に頻度が高いことに加えて、患者のQOL(生活の質)を低下させることが明らかとなってきたため、現在ではしっかりとした医学的対応をするべき疾患と考えられるようになっています。

医学における治療では「その病気が起きた原因」を確認し、その対処を行うのが原則ですが、機能性ディスペプシアの場合、なぜ、そうした症状が起きるのか、そのメカニズムも十分には分かっていません。機能性ディスペプシアを引き起こす可能性のある要因の一覧を右に挙げていますが、これだけ様々な原因で引き起こされる病気の対応は容易ではなく、実際、機能性ディスペプシアは多くの疾患・病態が混ざり合っている可能性が指摘されています。患者によって対応も様々であり、薬物療法のみならず、生活習慣の是正やストレスの軽減、医師と患者の信頼関係の構築も含めた、総合的な医学的対応が必要と考えられています。ただ、現在は、アコチアミド六君子湯などの有効性の高い薬剤が出てきていますし、この病気は寿命を縮めることはなくても、QOLの維持のためにも対応が必要な疾患です。内視鏡検査では異常なしと言われたのに、胃もたれやお腹の張り感などが続くなどで「機能性ディスペプシアかもしれない」と思った場合には、一度、専門医に相談されることをお勧めします。

(山道信毅)

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