東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

健康コラム

認知症予防のためにできること

人口の高齢化に伴い、日本では 2012年時点で約462万人(65歳以上高齢者の約15%)が認知症に罹患しており、その数は今後さらに増加すると予測されています。2025年には認知症患者は約700万にものぼると推定されており、ますます身近な病気となってくると思われます。
認知症発症の最も大きな要因は加齢ですが、そのほかにも、糖尿病、高血圧など、認知症の原因となるいくつかの要因がわかってきています。
2019年、WHO(世界保健機関)から、『認知機能低下および認知症のリスク低減』のためのガイドラインが公表されました。
認知症に対して根本的な治療は現在のところありませんが、ガイドラインで紹介されているような危険因子を管理することによって、認知症の発症や進行を予防できる可能性が示唆されています。

WHOガイドラインで示された12の要因は、下記の通りです
  1. 身体活動による介入
  2. 禁煙による介入
  3. 栄養的介入
  4. アルコール使用障害への介入
  5. 認知的介入
  6. 社会活動
  7. 体重管理
  8. 高血圧の管理
  9. 糖尿病の管理
  10. 脂質異常症の管理
  11. うつ病への対応
  12. 難聴の管理

禁煙や、アルコール摂取量の適切な管理、体重のコントロールや高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理は、他の生活習慣病予防とともに、認知症予防の観点においても重要です。

身体活動

身体活動(主に有酸素運動)は、健康成人や軽度認知障害の成人において、認知機能低下のリスクを低減するために推奨されています。
具体的には、65歳以上の成人について、週150分の中強度有酸素運動、週75分の高度有酸素能動、または同等の中から高強度の組み合わせた身体活動を行うこと、また有酸素運動は1回につき少なくとも10分以上続けること、筋力トレーニングは週2回以上、主要な筋肉群の使うトレーニングをすることなどが勧められています。

栄養的介入(食事)

地中海食やDASH食により、軽度認知障害やアルツハイマー病のリスクを低下させることができるという研究結果がでています。地中海食には、野菜・果物・豆やナッツ類・オリーブオイルをよく使う、乳製品や肉よりも魚を多く使う、食事と一緒に適量の赤ワインを飲むという特徴があります。DASH食とは、高血圧患者のための食事療法のことであり、①野菜・果物・低脂肪の乳製品を十分摂る、②肉類および砂糖を減らす、のが基本となります。
また、日本人での研究結果では主食に偏らず主菜や副菜をしっかりととるバランスのよい食事が認知症の発症リスク軽減につながると報告されています。
一方、ビタミンBやE、不飽和脂肪酸などのサプリメントの摂取は、認知症のリスクを下げる効果が確かめられていないため、推奨されていません。

難聴の管理

難聴は加齢とともによく起こる障害であり、65歳以上の成人の3分の1は難聴があると推定されています。難聴があると認知症のリスクが約2倍になると示されており、各リスク因子のなかで、最も認知症発症への影響の大きい要因となっています。
難聴があるとコミュニケーションをとることが難しくなることから、ひととの会話を避けるようになるなど、社会活動を妨げる要因ともなり、孤立感を強めてしまうことになります。
そのため、高齢者においては難聴を適切に発見し、治療することが大事です。定期的な検診で聴力をチェックし、低下のある場合には耳鼻科で詳しい検査を行い、適応のある場合には補聴器を使用するのがいいでしょう。
また、若い頃から、大音量で音楽などを聞くことにより起こる音響性難聴にならないように注意することも重要です。イヤホンを使用する際には最大音量の60%以下にし、適宜休憩をとって耳を休ませることを心がけましょう。

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このように、普段の運動・食事や生活習慣病等に気を付けることによって、認知症を予防できることがわかってきています。
若年・壮年の方でも、健やかに活躍できる老年期を迎えるために、いまこの時点から心がけることが大切かと思います。
また、現時点で少しでも気になる症状がある場合には、物忘れ検診の受診をお勧めします。
当センターの物忘れ検診では、タッチパネル式コンピューターを使って、現在の認知機能評価を受けることができます。
対面式ではなく、コンピューターの自動音声に従い質問に答える形式ですので、お気軽に受けていただくことが可能です。詳しくは、予防医学センターの受付にお問合せください。

参考:
  • WHO guidelines of risk reduction of cognitive decline and dementia, 2019
  • 認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン
  • 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)
  • WHO Tips for safe listening-Make Listening Safe, 2017

(松本ルミネ)

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