東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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脳血管ドックで何がわかるの? ~MRI検査の役割~

脳血管ドックの目的

脳血管ドックの最大の目的は「脳卒中の予防」です。脳卒中とは脳の血管が詰まったり破裂したりする病気の総称で、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、一時的に脳の血管が詰まる「一過性脳虚血発作」、脳内の血管が破れる「脳出血」、脳動脈瘤が破れる「クモ膜下出血」に分類されます。重症度は様々で、命が助からない方もいれば、麻痺やしびれなどの後遺症を残す方、無症状で潜在的に生じている方もいます。脳血管ドックではこういった脳卒中が発生しやすい人を見つけ、適切な予防対策を立てていくのが大きな目的です。

頭部MRI検査でわかること

脳血管ドックの中心的な検査となるのが、頭部MRI検査です。MRI検査とは強力な磁場によって体の断層像を可視化するもので、CTに比べると検査に時間がかかりますが、X線を使わないため被爆する恐れがなく、非常にリスクの低い検査です。脳血管ドックのMRIでは主に以下のような病変が見つかることがあります。

大脳白質病変

大脳白質とは大脳の内側の大部分を占め、多くの神経線維が走行する領域です。大脳白質病変は加齢や生活習慣に関連する脳小血管病の代表的変化です。軽度のものに病的意義はないとされていますが、高度なものは脳卒中や認知症の危険因子とされています。MRIではT2強調像やFLAIR像で脳内に白い斑点が見られ、高度になるとこれらが癒合し塊状となります(図1)。

図1 左:正常例。右:大脳白質に斑状・癒合状の白い構造が広く見られ(矢印)、大脳白質病変の所見です。
無症候性脳梗塞

無症候性脳梗塞とは、MRI検査では脳梗塞が見られるものの、本人は症状を自覚していない脳梗塞のことです。脳卒中や認知症の危険因子とされています。見つかるものの多くは脳深部の小さな梗塞で、FLAIR像でリング状に白い病変が見られるのが特徴です(図2)。

図2 左の基底核と呼ばれる領域にリング状の白い構造が見られ(矢印)、古い脳梗塞による傷痕の所見です。
脳微小出血

脳微小出血は高齢者や高血圧の方に多く、脳卒中の中でも特に脳出血を発症するリスクが高いとされています。脳の深部にあるものは脳小血管病に起因することが多いですが、脳の表面に近いものには脳アミロイド血管症に起因するものがあります。MRIではどの画像でも点状や線状の黒い構造として描出されます。

脳動脈瘤・脳動脈狭窄

MRI検査の中には脳動脈だけを可視化するMRAという検査が含まれており、血管を多数の方向から観察することができます。血管がなめらかな走行ではなく、瘤状に膨らんだ部分を動脈瘤といい(図3)、細くなっている部分を狭窄といいます(図4)。動脈瘤は破裂することで出血をきたし、狭窄は血管が詰まることで脳梗塞を生じることがあります。

  • 図3 脳の血管だけを抜き出したMRAと呼ばれる画像です。左内頚動脈に瘤状の膨らみがあり(矢印)、脳動脈瘤の所見です。
  • 図4 右内頚動脈の連続性が途絶え(画像左側の矢印)、左内頚動脈は一部で細くなっており(画像右側の矢印)、脳動脈狭窄の所見です。
脳腫瘍

無症状で偶然に見つかる脳腫瘍はほとんどが良性腫瘍で、髄膜腫、下垂体腫瘍、聴神経腫瘍などが見つかることがあります。

病気が見つかったら

大脳白質病変、無症候性脳梗塞、脳微小出血は脳卒中や認知機能低下の危険因子です。これらの病変が見つかった方は将来脳卒中を起こす可能性が高いため、積極的に予防する必要があります。食事運動療法に加えて、高血圧に対する降圧療法の他、糖尿病や脂質異常症の管理が中心になります。頸動脈狭窄がある場合は出血リスクの低い抗血小板薬(血液を固まりにくくするお薬)の投与が推奨されますが、すでに脳微小出血がある場合は脳出血を発症するリスクが特に高いため、抗血小板薬の投与は慎重になる必要があります。また、不整脈に起因する脳梗塞の場合は抗凝固薬(別の種類の血液を固まりにくくお薬)が投与されることがあります。このように患者さんごとに抱えるリスクが異なるため、MRIで病変が見つかったらまずは専門科を受診し、それぞれの問題点を整理する必要があります。その上で個々人にあった治療・予防をしていくことになります。
脳動脈瘤については30歳以上の成人に比較的高頻度(3%強)に見つかるとされており、ことさら神経質になる必要はありません。しかしながら、サイズの大きいものや形が不整なものなどは破裂するリスクが高いため、治療を含めた慎重な検討が必要です。また小さな動脈瘤も将来的に大きなものになることがありますので、経過観察をしていく必要があります。

どんな人が脳血管ドックを受診すべき?

以下の項目に当てはまる方は脳卒中のリスクが高く、積極的に受診が勧められます。

  • 40歳以上
  • 家族や血縁者に脳卒中になった人がいる
  • 高血圧、高血糖(糖尿病)、脂質異常症などの生活習慣病を指摘されている
  • 喫煙者
  • お酒をよく飲む
  • 肥満傾向

頭痛、めまい、手足のしびれ、物忘れなどの自覚症状がある方は、脳ドックではなく、通常の保険診療でのお早めの受診をお勧めします。

MRIを受けられない方

体内に金属のある方、妊娠の可能性のある方、閉所恐怖症の方、刺青のある方などはMRIを撮影できない場合があります。詳しくは脳血管ドック『受信者向けご案内』をご覧ください。

最後に

医療の進歩により脳卒中による死亡は激減しましたが、今なお脳卒中が医療介護費用のトップとなっています。命は助かっても後遺症が残れば、日々の生活に不自由を感じながら過ごすことになってしまいます。脳卒中の予防に一番大切なのは普段から低塩分・低脂肪な食事をとり、適度な運動を心がけ、喫煙や大量飲酒を避けることに間違いありませんが、これらを完璧にこなせる人は多くありません。一度脳血管ドックを受診し、脳卒中の予防に役立ててみてはいかがでしょうか?

出典:脳ドックのガイドライン2019 改定第5版

(中井雄大)

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