東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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慢性便秘症:生活習慣の改善と下剤使用における注意

慢性便秘症は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。近年、明らかに増加しているというデータはありませんが、女性に多く、また、高齢になればなるほど患者数が増加することが分かっています。「腸内容物の通過を妨げる病気(通過障害)」(器質性といわれます)がないことを確認することが最も重要で、特に大腸がんを見落とさないことが大切です。大腸がんは我が国で最も患者数の多い悪性腫瘍であり、我が国では増加の一途を辿っていますので、大腸がん検診の重要性は特に高まっています。また、他の病気に伴う便秘症(続発性)や、飲んでいる薬によって起こる便秘症(薬剤性)もありますので、これらを見落とさないことも大事です。ただ、こうした明らかな原因がないにもかかわらず、便秘の症状を訴える人は非常に多く、現在の医療の大きな課題となっています。
器質性・続発性・薬剤性などの原因がないにもかかわらず、慢性便秘症を訴える患者の大規模な解析が行われ、「慢性便秘がある人とない人を比べた場合、慢性便秘がない人の方がある人よりも長生きである」という研究成果(Am J Gastroenterol 2010, 105:822)が報告されました。こうした研究の結果を踏まえて、慢性便秘症のコントロールの重要性が再認識されるようになっています。

慢性便秘症では器質性・続発性・薬剤性の便秘を見落とさないことが重要ですが、その上で、以下のような生活習慣の改善が便秘の予防に有用と考えられています。

1)朝食をしっかり食べる

日本人は朝食を食べない習慣の人が多く、特に若い世代では多い(20歳代では約30%)ことが報告されています。食事によって排便が刺激されますが、この刺激も朝食後が最も強いことが知られています。

2)水分摂取

十分な水分を取ることは便秘改善に有効です。

3)食事内容の改善

食物繊維の摂取やプロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)の摂取の有効性が報告されています。

4)適度な運動

便が腸内を通過する時間を短くする効果が報告されています

5)排便習慣を確立する

排便したいと思わなくても、毎朝、トイレに座る習慣をつけることが有効とされています。また、排便時の姿勢も大事とされており、洋式トイレの場合は、① 両足のかかとをつける、② 上半身を前かがみにする、の2つを心掛けることが推奨されています。

生活習慣の改善で便秘のコントロールが難しい場合には、便秘治療薬(下剤)を検討することになります。下剤には様々な種類があり、気軽に薬局でも購入できますが、注意しなければいけないのは、「刺激性下剤」の長期間の使用は可能な限り避けるべきということです。刺激性下剤の多くは習慣性(依存)があり、薬を使い続けていると効かなくなってしまって、より多くの薬が必要になる、という悪循環に陥ることがあります。実際に我が国では、刺激性下剤の濫用によって、慢性便秘症を悪化させてしまっているケースが非常に多いと考えられています。一方、酸化マグネシウムに代表される「浸透圧下剤」はこうした依存が生じないため、第一選択として推奨されています。ただし、他の薬との飲み合わせが悪い場合があり、高齢の方で多くの薬を飲んでいるような方は注意が必要です(最近、発売された「浸透圧下剤」であるモビコールという薬剤は、こうした飲み合わせの問題はほぼありません)。
2012年以降、副作用が少なく有効性の高い便秘症の治療薬が相次いで開発され、医療機関での処方薬として使用できるようになりました(表1、表2)。治療の選択肢が広くなったことは良いのですが、下剤の種類が増えて使い分けも難しくなっており、また、気軽な下剤の濫用はかえって病気を悪くする恐れもありますので、下剤の長期的な内服を検討される場合には、一度は消化器の専門医に相談されることをお勧めします。

表1 主な便秘治療薬の一覧(一般名、赤字が最近、発売された薬剤)

表2 主な便秘治療薬の一覧(商品名、赤字が最近、発売された薬剤)

(山道信毅)

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