東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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失神とは?

失神とは一過性に脳の血流が低下することで、数秒から数分の間生じる意識消失のことで、通常は数分以内に意識は回復します。病院へ受診時には、意識は清明であることが多いのも特徴です。失神を1回でも経験した割合は19-39%と高く、若年者と高齢者に多くなっています。 主な原因として自律神経調節の異常(神経調節性失神)、起立性低血圧(いわゆる立ちくらみ)、脳血管・神経疾患、心臓疾患に分けられます。しかし、失神は診断が困難な場合が多く、40%程度は詳しい検査を行っても、原因が明らかにできないと報告されています。なかでも、心臓疾患が原因の失神の場合はときに重篤となるため、失神が生じた場合はすみやかな医療機関受診と、詳しい検査が強く勧められます。
失神の中で最も頻度が多いものは、神経調節性失神であり、自律神経調節の障害が原因です。これは明らかな心臓の疾患がなくても、長時間の起立や運動、排尿排便、飲酒、脱水、疲労がきっかけとなって生じることがあります。比較的若年者に多く、失神の原因の12~31%を占めます。多くの場合失神発作は誘因を避けることで失神は生じなくなることが多いですが、繰り返す場合には検査や治療が必要となることがあります。
心臓が原因の主としては①不整脈、②心臓の器質的異常、③その他(肺塞栓、急性大動脈解離、肺高血圧など)が挙げられます。心臓の器質的異常としては、急性心筋梗塞や狭心症、大動脈弁狭窄症などの心臓弁膜症、心筋の異常が生じる心筋症などがあり、重篤な疾患の合併が多くなっています。 失神の診断に重要なのは失神を生じた際の患者さんの状況です。失神の前に何か症状があったのか、何をしている際に生じたのか(運動中か、座っている時か、など)、失神の最中にけいれんなどがみられたか、などの情報が診断にとても重要です。その後、心電図、24時間ホルター心電図、心臓超音波検査またはCTなどの画像検査を行い、心臓血管疾患の診断を行います。心疾患が原因であった場合は、心臓カテーテル検査(冠動脈造影、心臓電気生理検査など)を行うこともあります。
不整脈による失神は、脈拍が極端に遅くなる徐脈や一時的に心臓が停止する不整脈により、脳虚血性症状が生じ、めまいや失神を伴います。一方で脈が非常に速くなる頻脈により血圧が低下することで失神を生じる場合は、重篤なケースは突然死に至ることもあります。このため、失神が不整脈によるものが疑われる場合は、できるだけ早い診断と治療が必要になります。治療は、徐脈性不整脈には恒久的ペースメーカー植込み、頻脈性不整脈には抗不整脈薬、カテーテルアブレーション、植込み型除細動器植込みが適応となる場合があります。
最近は、植込み型心電図計を胸の前面皮膚の下に植込み、長時間に渡り心電図をモニターすることで今まで原因が不明であった失神の診断ができるようになってきています。植込み型心電計は小型化しており、患者さんの負担も軽減され、日帰りで手術が受けられる施設が増えてきています。

(予防医学センター/循環器内科 荷見映理子)

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