東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

健康コラム

ウィルス性肝炎とは?

はじめに~肝臓について

肝臓は、体内で最大の臓器で、生命を維持するための重要な働きを担っています。主要な働きは、大きく3つあります。食べ物に含まれる栄養素を身体で利用できる形につくり直す「代謝」、有害な物質を無毒化する「解毒」、体で不要になったものの「排泄」です。人が食べたものは、胃、小腸を通して消化され、栄養分として腸で吸収されます。この栄養分が肝臓の中に入っていきます。肝臓の中に入った栄養分は肝細胞に取り込まれ細胞の中で体に必要な物質に変換(合成)され、また血液に乗って体の各所へ運ばれます。

肝炎とは?

肝炎とは何らかの原因により肝臓に炎症が生じる疾患です。炎症によって肝臓の細胞が壊され、肝臓の機能が低下していきます。
肝臓は再生する臓器と言われていますが、炎症が続いたまま治療せずに放置すると、肝硬変や肝がんなどさらに重い病気に進展することがあります。
肝炎の原因として、ウイルス性、アルコール性、自己免疫性、薬剤性などがあります。前述の非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease, NAFLD)も近年原因として注目されています。
肝炎の原因として最も多いものは肝炎ウイルスによるものであり、主にA, B, C, E型の4種類の肝炎ウイルスが知られています。

肝炎ウイルスに感染すると?

肝炎ウイルスに感染して肝臓で増えたウイルスが血液中に持続的に出ている人のことを、肝炎ウイルスキャリア(ウイルス保持者)とよびます。
現在わが国では、肝炎の検査を受けたことのない人が3-4割いることが明らかになってきており、B型肝炎キャリアは110~140万人、C型肝炎ウイルスキャリアは190~230万人と推定されています。

急性肝炎と慢性肝炎について

肝炎を臨床経過で分けると主に急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。
急性肝炎とは短期的に肝細胞に炎症が起き、一時的に症状が悪化するものの、数ヵ月以内に治癒する疾患のことです。
急性肝炎では、主に発熱、全身倦怠感、黄疸などの症状を呈します。
自然経過で治癒することが多いのですが、まれに急性肝不全という重篤な経過をたどることがあります。肝炎ウイルスによる急性肝炎は、主にA型、B型、E型肝炎ウイルスが原因となります。
慢性肝炎とは慢性的に肝臓に炎症を生じる疾患です。通常6か月以上肝炎が続くと慢性肝炎と診断されます。
肝炎ウイルスによる慢性肝炎は、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスによるものが多く、現在わが国のB型肝炎の患者さんは慢性肝炎が13万人、肝硬変および肝癌が4万人の計17万人、C型肝炎の患者さんは慢性肝炎が32万人、肝硬変および肝癌が16万人の計約47万人と推定されています。
治療については、現在飲み薬の治療が中心であり、検査や治療に対しては医療費の助成も受けられるようになっています。

おわりに

肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれ、もしもウイルスに感染していても、自覚症状がないまま病気が進行する恐れがあります。これらを予防するため、早期発見、早期治療が重要です。
健診で肝臓の数値が正常範囲であっても、血液中に肝炎ウイルスがいることもあります。
採血検査の機会があれば、一度確認してみてはいかがでしょうか。

(西川尚子)

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