東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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「膵がんドック」はじめました

「膵がんドック」はじめました

膵臓はみぞおち(心窩部)の辺り、胃の後ろ側にある臓器です。消化液である膵液を分泌したり(外分泌)、血糖を下げるインスリンなどホルモンを分泌したりする(内分泌)働きをしています。
膵臓にできるがん(悪性腫瘍)が膵がんです。膵がんの治療は難しいと聞いたことがある方は多いと思いますが、膵がんと診断された患者さんが5年後に生きている割合(5年生存率)はわずか8.5%といわれています(図1)。これは全身の各臓器にできるがんの中で最も悪い数字です。膵がんは難治がんの代表なのです。
膵がんにより亡くなる患者さんは年々増えており、2018年の統計では年間35,000人の患者さんが膵がんにより亡くなっています。これはがんによる死因の第4位となっています(図2)。

  • 図1 がんの5年生存率
  • 図2 がんによる死亡者数

症状のないうちに「早期発見」を

膵がんによる症状には、お腹や背中の痛み、体重減少、黄疸、食欲低下などがありますが、このような症状は病気が進んでからでないと現れてこないことが多いです。そのため、症状が出てから病院を受診して膵がんが見つかった場合、すでに手術ができないほどに病気が進行してしまっていることがほとんどです。症状をきっかけに発見された膵がんの患者さんは、無症状で偶然発見された膵がんの患者さんに比べて、残念ながら予後が悪いことが分かっています。
膵がんに「早期がん」というものはありませんが、大きさが1cmを下回る時点で手術をすると、再発が少なく、予後が良好であることが知られています。したがって、症状が現れる前に、1cm以下の膵がんを「早期発見」することが重要といえます。

膵がんになりやすいのはどんな人?

次のような人は、膵がんになりやすいと言われています。

  1. 膵臓にのう胞があると言われた人 ・・・約10倍
  2. 家族性膵がん家系で、両親・兄妹・子供の中に膵がんの患者さんが
    1人いる人 ・・・約5倍
    2人いる人 ・・・約6倍
    3人以上いる人 ・・・約30倍
    (家族性膵がん家系:親子・兄妹に2人以上の膵がんの患者さんがいる家系)
  3. 1年以内に糖尿病と診断された人 ・・・約6倍
    (糖尿病の治療中に急に血糖コントロールが悪化した場合も膵がんの可能性があります)

その他の危険因子としては、慢性膵炎、肥満、喫煙、大量飲酒などが知られています。

膵がんを見つけるための検査は?

膵がんを見つけるための検査として、一般的な人間ドックなどで行われているのは腹部超音波(エコー)検査です。お腹にゼリーを塗って、超音波探触子(プローブ)を当てて膵臓を観察します。しかしながら、膵臓は体の奥の方の深い場所にあるので観察が難しく、特に膵頭部や膵尾部といわれる部位は胃腸のガスの陰に隠れてしまい観察できないこともあります。
膵がんの精密検査のために有効な検査としては、超音波内視鏡(EUS)検査や造影CT検査があります。特にEUSでは、小さな膵がんも詳細に観察することが可能で、穿刺針を用いて検体採取を行い、病理診断をつけることも可能です。しかしながら、これらの検査は、体への負担(侵襲)が大きくなるため、人間ドックなどで実施するには向いていません。
東大病院予防医学センターでは、膵がんドックとして腹部MRI/MRCP検査を行うことにしました。腹部MRI検査では、強力な磁石を用いて体の様々な方向から見た断面写真(断層像)を撮影することができます(図3)。造影CT検査と違って被ばくや造影剤による副作用の心配がなく、体への負担が非常に少ないです。また、膵がんの早期の徴候である膵管(膵液の通り道)の狭窄や拡張、膵のう胞といった画像所見を鋭敏にとらえることのできるMRCPという撮影方法も同時に行うことができます(図4)。

  • 図3 膵がんのMRI写真
  • 図4 膵がんのMRCP写真

膵がんを克服するために

難治がんの代表である膵がんを克服するためには、様々なアプローチが必要です。当院では、小さな膵がんを見つけられるEUS検査を多数行っています。また外科では手術治療の、内科では抗がん剤治療の豊富な症例経験があります。さらに外科と内科が協力して手術前に抗がん剤治療を組み合わせる術前補助化学療法も積極的に行っています。
膵がんドックで異常が認められた場合には、すみやかに消化器内科で精査を受けられます。早期に膵がんを発見し、それぞれの患者さんに最適な治療を提供し、膵がんを克服できるよう予防医学センターと協力して診療にあたってまいりたいと考えております。

(消化器内科 水野卓)

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