東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

健康コラム

慢性咳嗽について

咳嗽の持続期間からの分類

咳嗽は、その持続期間から3週間未満の急性咳嗽、3週間から8週間未満の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分類されます。急性咳嗽は、気道の感染症もしくは感染後咳嗽(感染後に長引く咳嗽)が多くを占めますが、持続期間が長い咳嗽、特に慢性咳嗽においては感染症が原因である頻度は低下します。
気道感染症は、咳嗽の他に、発熱、倦怠感、咽頭痛等の併存症状が多くの場合あります。通常の細菌性感染症、ウイルス感染症が8週間以上持続する慢性咳嗽の原因となる事は稀です。感染を疑う症状を伴った慢性咳嗽は、肺結核、非結核性抗酸症といった抗酸菌やアスペルギルス等の真菌による感染症(真菌は肺や全身に基礎疾患がある方が感染が多い)等が原因となります。
当予防医学センター人間ドックでは、特にCovid-19感染症の情勢から、徹底した検温、問診を行っており即治療を必要とする気道感染症を疑う症状、病歴のある方は受診をされません。そのような中でも慢性咳嗽の症状で、お悩みの方は稀ではありません。

今回、以下に慢性咳嗽について概述致します。

慢性咳嗽の疫学及び原因疾患

わが国の一般人口における咳嗽の罹患率は約 10% で、さらに 8 週間以上持続する慢性咳 嗽の罹患率は 2% とされています。本邦及び欧米では頻度に差がありますが、図1(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)が慢性咳嗽の原因疾患の頻度の報告になります。咳喘息/喘息、アトピー咳嗽が多く、また後鼻漏/鼻副鼻腔炎、逆流性食道炎の頻度が多く、これらを中心に念頭に置く必要があります。

図1 咳嗽に関するガイドライン第2版より引用

慢性疾患の原因疾患の鑑別のために

図2が慢性咳嗽の各原因疾患に特徴的な病歴になります。
喫煙やある内服薬(ACE阻害薬:高血圧症の薬として使用されます)といった明確な原因があれば、それらを除去する必要があります。
図2に記載された内容を含め、各疾患に特徴的な病歴が無いか聴取が重要になり、また胸の聴診で特に喘息特有の呼吸の副雑音の聴取の有無に留意します。(気管支喘息の診断は、病歴や特徴的な聴診所見の確認が非常に重要になります)
人間ドックで行われる検査においては、胸部レントゲンや胸部CTは慢性の感染症や副鼻腔気管支症候群の診断の契機となる事もありますし、上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎の有無や程度の判別が可能です。

図2 咳嗽に関するガイドライン第2版より引用

慢性咳嗽の治療

実臨床では、診断的治療が行われる事が多いです。慢性咳嗽は病歴と可能な範囲で行われる検査から疑い診断(治療前診断)が付けられます。そこで、診断が確定するわけでなく疑った疾患に対する特異的治療が奏効して初めて診断が確定します(治療後診断)。
図3(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)が主な慢性咳嗽の原因疾患の特異的治療となります。特に咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わず咳嗽が唯一の症状であり、呼吸機能検査ほぼ正常、気道過敏性亢進、気管支拡張薬が有効で定義される喘息の亜型であり、病歴や諸検査により存在の推定は可能ですが、気管支拡張薬により症状が改善するかが診断のkeyとなります。

図3 咳嗽に関するガイドライン第2版より引用

人間ドックを受診される方において慢性咳嗽に悩まれている方は、問診や検診における諸検査においても鑑別を絞る事も可能と考えられますので御相談下さい。

(松崎博)

ホームへ戻る