東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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脂質異常症

脂質異常症はどのような病気でしょうか?

脂質異常症は、血液中のコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)が、基準値をはずれてしまう状態です。コレステロールは、いわゆる「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールと、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールに大別されます。LDLコレステロールや中性脂肪が増えてしまったり、HDLコレステロールが減ってしまったりする状態が続くと、動脈硬化が起こります。
動脈硬化とは、血液が流れる大事な血管である動脈が硬くなり、狭くなるなどして、血液の流れが悪くなる病態のことを言います。その結果、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などを引き起こし、命を失う危険があります。
なお、以前は「高脂血症」という病名がよく知られていました。「悪玉」であるLDLコレステロールや中性脂肪が「高くなる」病気として認識されていたからです。しかし様々な研究の結果、「善玉」であるHDLコレステロールが「低くなる」ことも動脈硬化のリスクであることが分かってきましたので、「脂質異常症」という呼び名が広まっています。悪玉が多いことだけではなく、善玉が低いことにも注意が必要ということを覚えていただきたいと思います。

どうして治療が必要なのでしょうか?

上に書きましたように、脂質異常が起きると、動脈硬化が進行し、脳や心臓をはじめとする全身の血管が硬くなるなどし、致命的な病気を起こしてしまうからです。図1をご覧ください。医療は年々進歩しているとはいえ、平成30年の統計を見ても、脳血管の病気や心臓の病気で命を落とす方がたくさんおられます。
図2のように、命を落とさないまでも、介護が必要となった主な病気の原因として、脳血管の病気や心臓の病気の割合も大変多いことが分かります。
やっかいなことに、脂質異常症は、目立った自覚症状がありません。そのため、致命的な病気が起きて初めて、自分が脂質異常症を持っていたことに気が付く方も少なくありません。自覚症状がなくても、健康診断や人間ドックなどで、血液検査を受けていただくことが早期診断につながります。

どのように診断をつけるのでしょうか?

図3をご覧ください。脂質異常症の診断をつけるためには、血液検査を受けていただき、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、Non HDLコレステロールを評価する必要があります。基本的に、健康診断や人間ドックをお受けになる場合、空腹時に血液検査を受けることが多いと思います。そのため、図3は空腹時を基準とした値です。
中性脂肪について補足します。中性脂肪は、空腹時の値が150mg/dl以上で高中性脂肪血症という診断がつきます。しかし、空腹時の中性脂肪の値が正常範囲であっても、食後(非空腹時)に中性脂肪が高くなる方もいらっしゃいますので、注意が必要です。非空腹時の中性脂肪が高いほど、脳血管の病気や心臓の病気が増えるという報告もあります。そのため、少しでも多くの方がスクリーニングを受けていただけるように、空腹時のみならず、非空腹時の中性脂肪のスクリーニング基準値を決めることも提唱されています。

どのような治療があるのでしょうか?

脂質異常症の治療として、まずは生活習慣の改善が大事です。主に、食事療法、運動療法に加え、禁煙や、肥満の改善が重要とされています。生活習慣を改善しても、血液検査で脂質の値が管理目標値に達しない場合は、お薬での治療も必要となります。ただし、脂質異常症にはいくつかの原因があります。中には、生活習慣と関係なく、遺伝的に(体質的に)脂質異常症を来たす方もいらっしゃいます。
治療を行う際、脂質の管理目標値は、年齢や性別、家族歴、他の病気の有無などによって、1人1人異なります。そのため、ご自分の判断のみで、食事を制限したり、運動を開始したりするのは大変危険です。インターネットなどの情報をもとに、ご自分だけで対応しようとすることは、どうかお止めください。どの病気も同様ですが、お1人で抱え込まないようにしていただきたいと思います。
脂質異常症と言われたら、まずは、お気軽に医療機関へご相談ください。脂質異常症は、1人1人の生活習慣、他の持病の有無などを総合的にとらえた上で診断に結び付け、1人1人に応じた治療を行う必要があります。

忘れないでいただきたいこととして、動脈硬化を防ぐためには、脂質異常症以外にも気を付けなくてはいけない病気があります。例えば、肥満、高血圧、高血糖(糖尿病)はよく知られていますし、高尿酸血症や、腎臓の病気、喫煙習慣をお持ちの方なども注意が必要です。
つらい症状がなくても(症状がないからこそ)、健康診断や人間ドックで、ご自分に脂質異常症がないかどうか、お調べください。脂質異常症と言われたら、決して放置せず、医療機関にご相談ください。適切な治療を受けていただくことによって、少しでも皆様の健康寿命を長く伸ばせるように、私達も頑張ってまいりたいと思います。

(升田紫)

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