東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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自己免疫性胃炎とは?

上部消化管内視鏡検査にて、萎縮性胃炎を指摘されたことのある方は比較的多くいらっしゃると思います。萎縮性胃炎というと、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染によるものを思い浮かべますが、自己免疫性胃炎も萎縮性胃炎の原因の一つになります。かつては欧米に多く日本は少ないと考えられてきましたが、近年、日本においても徐々に増加してきており、現在は、人種差はなく、男性よりも女性の頻度がやや高いとされています。

自己免疫性胃炎は、抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体などの自己抗体(本来は細菌などに対して免疫を司る体の中の抗体が、自分自身を誤って攻撃してしまうもの)が関与しており、自己免疫機序(異物を認識し排除するための役割をもつ免疫系が、自分自身の細胞や組織に対して反応し攻撃を加えてしまう現象)により胃粘膜の萎縮(胃の粘膜に炎症が起こることで、胃液や胃酸などを分泌する組織が縮小し、胃の粘膜が薄くなる状態)を引き起こしてきます。典型例では、胃の真ん中の体部を中心とした萎縮性胃炎で、胃の出口付近の前庭部には萎縮を認めないか軽度であり、Helicobacter pylori感染による胃前庭部を中心として胃体部に拡がる萎縮性胃炎とは内視鏡像が異なります。

  • 胃前庭部
  • 胃体部:胃前庭部の萎縮が軽度であるのに対し、胃体部の萎縮は高度であり、逆萎縮を示しています。

自覚症状は乏しく、長期にわたり無症状のまま徐々に進行していきます。進行後に出現する自覚症状も非特異的であることが多いですが、進行すると胃酸分泌低下による鉄欠乏や、内因子低下によるビタミンB12欠乏の状態となり、貧血を認めるようになります。また、胃壁細胞の破壊により高ガストリン血症をきたしてくるため、胃癌や胃神経内分泌腫瘍(neuroendocrine cell tumor)の合併率が高くなってきます。さらに、甲状腺疾患や1型糖尿病など胃外の自己免疫性疾患(免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう疾患)の合併や、他部位の悪性腫瘍の発生率が高いとも言われており、単なる胃の疾患ではなく、全身性の疾患としてとらえて精査していく必要あります。

日本では、Helicobacter pylori感染による萎縮性胃炎の頻度が高く、並存している場合も多いため、病態が複雑になり診断がつきにくいとされており、確定診断には上部消化管内視鏡検査や病理診断、血液検査も含め総合的に診断をしていきます。自己免疫性胃炎のみによって萎縮が進んだ場合、尿素呼気試験(Helicobacter pyloriに感染しているかを調べる検査の一つ)が陽性(偽陽性)になることがあり、繰り返しHelicobacter pylori除菌を行われている場合があります。また、血中Helicobacter pylori抗体陰性かつペプシノゲンI値とペプシノゲン I/ ペプシノゲンII比が低下した場合(胃がんリスク層別化検診D群)、Helicobacter pylori感染によって萎縮が進行し自然除菌(除菌治療を行っていなくても、Helicobacter pyloriが自然に消失すること)されたと解釈されることが多いですが、その中には自己免疫性胃炎が含まれている可能性があります。

早期発見、早期治療を行うためにも、少なくとも1年に1度の定期的な上部内視鏡検査を行うことをお勧めします。

(新美惠子)

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