東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

健康コラム

糖尿病ってどんな病気?

11月14日は何の日でしょうか?

今回のコラムでは、糖尿病について説明いたします。糖尿病は、世界中で年々増え続けている病気です。実際、日本でも糖尿病人口の増加は深刻です。平成28年の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」を合わせると約2,000万人。つまり、日本人の約15%に相当しますので、糖尿病は決して他人事ではありません。こうした中、国際連合は11月14日を「世界糖尿病デー」と決め、糖尿病の予防や治療が重要であることを全世界に広める取り組みを行っています。(図1)は、世界糖尿病デー願いを形に表した、「ブルーサークル」です。ブルーサークルは、青い空をイメージしています。世界中、どこまでも広がる空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を意味しています。つまり、「世界で団結して糖尿病と闘いましょう」という願いが込められています。ちなみに11月14日が選ばれた理由は、糖尿病治療にとても重要なインスリンを発見したバンティング博士の誕生日だからです。インスリンについては、このコラムで説明します。

糖尿病はどのような病気でしょうか?

糖尿病は、インスリンの働きが悪いことが原因で、慢性的に血糖値が高い状態が続く病気です。食事やお菓子を食べたり、甘いジュースを飲んだりすると、消化管で糖分が吸収され、血糖が上がります。本来、血糖は体にとって重要なエネルギー源です。ですので、体の中には、血糖を上げるように調整してくれるホルモンが何種類も存在します。私達が多少の長い間、食事を食べなくても元気に生きていけるのは、こうしたホルモン達が血糖を上げてくれるからです。ところが、血糖は高ければ良いのかというと、そうではありません。血糖の上がり過ぎが体にダメージを与えてしまうので、血糖が上がり過ぎないように、うまく血糖を下げてくれるホルモンがたった1つあります。それが、インスリンです。インスリンは、膵臓で作られ、血液中に分泌されます。インスリンのおかげで、私達は血糖値の上昇を心配せずに飲み食いが出来ます。ところが、膵臓からのインスリンの分泌が落ちてしまったり、様々な原因でインスリンの効き具合が悪くなってしまったりすると、血糖が下がりにくくなり、血糖値が高い状態が続きます。

どのように糖尿病の診断をつけるのでしょうか?

高血糖が慢性に続いていることを証明する必要があります。適切な診断のためには、血液検査を受けていただく必要があります。糖尿病の診断や治療に有用な代表的な項目として、血糖値、HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)があります。血糖値は、血液検査を受けるときの状態によって、絶えず変わります。しかしHbA1cは、血液検査を受ける瞬間からさかのぼって、過去1~2カ月間の血糖値の平均が分かります。つまり、血糖値が正常であっても、HbA1cが高ければ、過去1~2カ月間は血糖が高い状態が続いていたことになります。ただし、「口やのどが渇く」、「尿量が多い」、「不自然に体重が減る」などの自覚症状がある場合や、糖尿病網膜症(糖尿病による眼の病気)がある場合は、初回の検査だけでも糖尿病の診断がつきます。また、初回の検査で異常を認めなくても、過去にこれらの自覚症状があった記録や、過去に糖尿病型を示した資料(検査結果)がある場合も、糖尿病の疑いをもって慎重に対応する必要があります。

糖尿病にはどのような分類があるのでしょうか?

糖尿病には複数の分類があります。糖尿病のほとんどは、2型糖尿病です。若い頃はインスリンがきちんと働いて血糖値を下げてくれていたにも関わらず、食事の乱れや運動不足、肥満などが重なり、インスリンの効き具合が徐々に悪くなり(これをインスリン抵抗性と呼びます)、2型糖尿病を発症します。一方、インスリンを作ってくれる膵臓の細胞が壊れてしまい、インスリンが完全に分泌されなくなる1型糖尿病もあります。一般に、1型糖尿病はお子さんに多く、2型糖尿病は成人に多い傾向があります。しかし、1型糖尿病は成人でも発症することがあり、最近は生活環境の変化からお子さんでも2型糖尿病を発症することが増えてきました。また、膵臓の病気や肝臓の病気、感染症、薬の副作用などで発症する糖尿病や、妊娠によって発症する糖尿病もあります。このように、糖尿病には様々な分類がありますので、健康診断や人間ドックで糖尿病の診断を受けた方は、必ず医療機関を受診するようになさってください。

糖尿病にはどのような合併症があるのでしょうか?

糖尿病の合併症として、急性期の合併症と慢性期の合併症の2つがあります。まず、慢性期合併症から説明します。糖尿病が長期間続くと、全身の血管がダメージを受けてしまいます。細い血管(細小血管)がダメージを受けてしまうと、網膜症(目が見えづらくなる病気)、腎症(腎臓の働きが落ちる病気)、神経障害(手足のしびれなど、様々な感覚異常が起きる病気)が起きます。太い血管(大血管)がダメージを受けてしまうと、冠動脈(心臓の働きが落ちる病気)、脳血管(脳の働きが落ちる病気)、末梢動脈(足の働きが落ちて歩けなくなる病気)が起きます。これらはいずれも、日常生活をおびやかす危険な病気です。また、急に血糖値が上昇してしまうことにより、糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群という急性期の合併症も起きます。急性期の合併症はあまり知られていない印象がありますが、命をおびやかす危険な病態です。最近の研究結果では、骨折、歯周病、感染症、認知症、一部の癌では糖尿病との関連が高いことも知られています。

糖尿病にはどのような治療があるのでしょうか?

糖尿病の治療として、食事療法、運動療法、薬物療法の3本柱が重要です。ただし、治療は千差万別です。糖尿病の分類、生活背景や御年齢などをよくよく考えながら、個々の患者さんに一番合う治療法を考える必要があります。糖尿病の治療は、主治医の先生をはじめ、看護師さん、栄養士さん、理学療法士さんなど、多くの医療スタッフと連携を取りながら取り組む必要がありますので、かかりつけの医療機関でよくご相談ください。またの機会に、このコラムでも治療法については取り上げたいと思います。

糖尿病は、血液検査や尿検査をお受けいただくことで診断につながる病気です。自覚症状の有無に関わらず、健康診断や人間ドックで検査をお受けになることが極めて重要です。確かに、つらいことや不安なことも多い病気ですが、患者さんと医療スタッフの二人三脚で治療を行うことが出来れば、糖尿病は決して怖い病気ではありません。糖尿病に負けず、糖尿病と闘ってまいりたいと考えております。

(升田紫)

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