東京大学医学部附属病院 予防医学センター

健康コラム

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ピロリ菌ってなあに?

ピロリ菌 Helicobacter pylori (H. pylori) とは、胃の中に生存する細菌です。欧米と比較すると日本での感染率が高く、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌の最大の原因になります。

  • 未感染
  • 現感染
  • 既感染

では、どのように感染するのでしょうか。約80%が家庭内で感染し、特に母子間での感染が多いとされています。ピロリ菌はヒトの胃粘膜にのみ感染し胃の外では長く生きることができないので、感染経路は胃-口感染とされていますが、どのような行為で感染するかはわかっていません。成人では一時的に感染が起きても持続的に感染することは少なく、基本的には5歳以下の小児期に経口的に感染し、胃粘膜に定着し慢性的な炎症を引き起こします。持続的な感染が起きた場合は、ほぼ100%慢性胃炎となり、胃癌のほとんどはピロリ菌感染に伴う慢性胃炎を背景として発症してきます。感染者で慢性胃炎があると、年間0.3%程度の胃癌発生リスクがあります。ピロリ菌除菌によって胃癌発症は抑制されるため、胃癌予防には除菌することが大切です。

ピロリ菌感染があるかないかの検査法については、菌自体を培養する細菌学的診断、病理組織学的診断、菌体の有するウレアーゼ活性を指標とした迅速ウレアーゼ試験、尿素呼気試験、血清抗体診断法、尿中抗体診断法、糞便中の特異抗原測定法があります。大きくは、一度もピロリ菌に感染したことがない「未感染」、現在感染している「現感染」、過去の感染や除菌後の「既感染」の3つに分けられます。内視鏡検査で慢性胃炎と診断された場合、除菌後や自然除菌された既感染の場合も含まれます。逆に、内視鏡検査で慢性胃炎が軽く未感染と間違う場合もあるので、必ず一度はピロリ菌のチェックをするようにしましょう。

ただ、ピロリ菌陰性という結果であっても、血清抗体検査(血液検査)の場合、陰性の中には既感染も含まれるため、内視鏡検査など他の検査と組み合わせた診断がより確実です。特に血清抗体価は陰性の結果であっても、その数値が比較的高めの場合は、既感染が多いとされています。また、除菌によって胃粘膜の炎症が改善すると胃癌リスクが軽減しますが、最も良い報告でもリスクが約1/3になる程度で、未感染者と比較すると胃癌のリスクははるかに高いことが知られています。除菌成功後も胃癌は発見されるため、1年に1度の定期的な内視鏡検査は行うようにしましょう。除菌治療は多くのメリットがありますが、注意点としては、除菌後に一時的に逆流性食道炎が出現・増悪したり、肥満やコレステロール上昇などの生活習慣病が生じることが報告されています。規則正しい生活が健康の基本であることは変わりませんので、常に心がけることをお勧めします。

(新美惠子)

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